現在ではIoT(Internet of Things)の概念が当たり前のように浸透し、家電や自動車・家などのモノがインターネット経由でつながるようになりました。
この基本的な概念を30年以上前から提唱していたのが、東洋大学INIAD情報連携学部学部長の坂村健氏です。
坂村氏がこの概念を実現するために立ち上げたのが、TRON(トロン)プロジェクトです。
TRONはリアルタイムOSであり、今ではIoTには欠かせない組み込みOSとなっています。
2017年度、IoT関連機器に組み込んだOSのAPIでは、TRON仕様に準じたAPIのシェアが60%を占めています。
そもそも1960年代までは、モノのなかに入るようなサイズの制御装置が存在しませんでした。コンピュータは、1台で1つの部屋を占有する巨大なものが大半でした。
しかし、1970年代に半導体技術が進化したことで、マイクロプロセッサが誕生しました。これにより、パーソナルコンピュータをはじめとした安価で高性能なコンピュータが開発されます。
また、小型デバイスのなかにもコンピュータ・OSを組み込んでモノの制御をすることができるようになりました。
こうした流れの中で、1984年にTRONプロジェクトが発足されました。
同プロジェクトにおいて坂村氏は、日常生活のあらゆる部分にまでマイコンが入り込むようになると予想し、それらを連携するシステム「超機能分散システム」(Highly Functionally Distributed System=HFDS)の形成を想い描いてきました。
HFDSはその後、どこでもコンピュータ、ユビキタスコンピューティング、そしてIoTと呼称が変化していきましたが、目指す方向性は当初から同じです。
現在ではさらに技術が進み、マイクロプロセッサなど何もかもがワンチップに集約されてより小さな箱の中に組み込むことができるようになりました。
さらに省電力化の技術も進んでいます。これが、今の世界が求めており「IoT」がここまで進展した要因と、坂村氏は語ります。
実際に、小惑星探査機「はやぶさ」から産業用機器・家電製品まで、省エネ性能が求められる幅広い分野においてTRONは積極的に採用されています。
このようなIoTが積極的に推進される現状において、これから「APIの公開」が大きな課題になると坂村氏は考えています。
というのも、一時期コンピュータネットワークを用いた通信機能を持つ「情報家電」が流行りました。しかし、それらは同じメーカーの製品やアプリでしか連携できませんでした。とくにこの動きは日本のメーカーで顕著です。
このような仕組みでは、オープンなコンピュータアーキテクチャを目指すTRON、そしてIoTの概念に準じているとはいえません。
よりオープンな仕組みを作るためには「単純にTRONを使ってもらうだけでは意味がなく、各メーカーがAPIを公開しないといけないんです」と坂村氏は言及しています。